隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

トップスターとは珠城りょうのこと 月組感想その4

宝塚歌劇がスターを育てる為に全てのことを組んでいるのだとすると、現トップスターというのはその象徴でありまさに顔でなければならない。でもそんなトップスターたちも、公演を経験して化けていく。

月城かなと 明日のスター

WTTで、東京公演用に越天楽の場面を与えられたのは「月城かなとだったから」というのもあったろう。合理的な理由は、ソーシャルディスタンスを保って最低限の人数でお稽古するには、あの追加場面はソロしかなくて、ソロが与えられるのは暁でもそれ以下の若手でもなく月城かなとだった。月城かなと&風間柚乃の鏡の場面も、性格上はまるで月城かなとソロのような「鏡」だったし、その後のピガールにおいても、存在感たっぷりで、この本公演では、月城かなとの全てを絞り出したかのような活躍ぶり。
その結果、「舞台写真など買うて眺めても仕方なし、一生手を出すまい」と誓っていたにも関わらず「はわわ、れいこちゃん!」となっていっぱい買っちゃったいい歳の女がここにいますよ。れいこちゃんのお写真、正月飾りにちょうどいいわ…とか血迷った台詞呟いて買ってた私……。

最後の黒燕尾まで、れいこちゃんのつくる形は完璧。ただ顔が綺麗なだけの役者ではないことをこれでもかと証明してくれた。
連日ファンを魅了した、ロングトーンからのアドリブも最高だったけれど、エンディング、舞台で珠城ジャンヌが歌い出すその後ろで皆ストップモーションになるが、ここのポーズが毎回違っていて、そうした細やかな芝居心にもときめいた。毎回「今回が1番良かった」を更新してくれるれいこちゃん。できれば「たまれい」でもっともっと観たかった。

珠城りょう 真のトップスター

歌舞伎界そして日本演劇界の女帝と言われた六代目歌右衛門は、当時人気実力で世間をあっと言わせた、若かりし頃の坂東玉三郎について、インタビューでこう答えている。
玉三郎の歌舞伎ではなく、歌舞伎の玉三郎にならなくてはね」

圧倒的人気を誇った明日海りおが「明日海りおの宝塚」ならば、珠城りょうはどこまでも「宝塚の珠城りょう」だなぁと、感じた。
そしてどちらが好きかという好みの話をすれば私は、断然「宝塚の珠城りょう」が好き。
WTTでは舞台上の1番高いところにいる役回りがわかりやすく表現されていたけれど、よく間が持つなぁ、と。彼女のトップスターとしての円熟味を感じたし、ウェルカムウェルカムの中で花道を進む姿は生観劇ではじめて、こんなにも劇場全体に細かく視線と顔を配るジェンヌさんははじめてだ、と思った(皆2階、1階、お得意様最前列の3点にぱぱぱーとやるが、今回珠城りょうは大変細やかだった)。

ピガールは、男役の女性が男装の女の子を演じるってもうこっちはよくわからないが、珠城りょうはまさにそんな感じだった。「男役の珠城りょうが男装の女の子をやるとこんな感じ」を完璧にお見せしてくれる。
あの早変わりを成功させているだけで彼女が稀有な才能を持っているのだが、あまりにサラリとやるので月組月組ファン以外に理解されなくてちょっと損。
フィナーレについても、娘役たちと歌いながら踊り、即あの激しい黒燕尾を踊り、そのまままた歌いながらのデュエダン。このデュエダン終わりでようやく額から汗が噴き出る。体力モンスターである。
どこにも手を抜かず、愚直なまでに真っ直ぐに作品を高めた姿には称賛しかない。

何か言いたい人もいる

ところで今作、SNSが毎日賑わっていたが、中にはジェンダー云々を雑に扱った恥ずべき作品という感想も見かけた。最初私は、一切そんなメッセージ(ジェンダー関連)を作品から感じなくて、あれ、全然浅いところしか観てなかったのかなとちょっと焦った。
その後劇場で生観劇したときにちょっとその、他人の感想が頭をよぎったけれど、やっぱりわたしには「細けぇことはいいんだよ」感なら感じるんだけどなぁと思うばかり。
どこが十二夜だという感想もあったが、まあ、まあ…かなぁ。

歌舞伎で何年も前に、故蜷川幸雄十二夜をやった。このとき私は実際に観劇したのだが、今作のように舞台上に鏡を用いて客席を映し出す演出がとられていた。原田氏が演出家としてそれを知らないわけはなく、オマージュと感じた。

そもそも、シェイクスピアジェンダー問題なぞ考えていない。そしてピガールのヒロインもまた、追われる身でやむなく姿を変えた女の子以上の意味はない。なくて良い。ピガール狂騒曲は、誰よりも包容力に定評のあるトップスターが、若い男の子の格好でも女の子みを出す芝居 を中心に楽しむ娯楽なのだから。

宝塚歌劇初見の家族が本公演を観たらなんと言ったか

さて今回、偶然、身内が友人に誘われてWTT&ピガールを観劇していた。しかも生徒席。
とんでもない筋からチケットが回ってきたものだ。本人は誘われただけなのでわかってなかったが…
タカラヅカ自体「天海祐希ってタカラヅカだよね」くらいの知識のこの身内に「どうだった?」と聴いてみたら
「思ってたより(男役への)違和感がなかった。もっと変だと思った」
が第一声。次いで
「あのピガール?の方は、ちょっと長かった。もっと短くて良かった、あのあとまたショーがあってびっくりした」
と言った。
これぞ忖度なき感想……。
ショーがなくってどうするのヨォォォという私とちょっと揉めた。

そんなこんなで、とにかく楽しい年末観劇となった。今年色々なことがあって、この作品は本来真夏。そしてこの年末にはもう、珠城りょう美園さくらは退団していたなんて信じられない。私はこの、こんな世の中の年末の宝塚劇場が、WTT&ピガールでよかったと心から思う。


にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村