隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

『桜嵐記』『Dream Chaser』

月組が無事、宝塚大劇場の千秋楽を終えました。
とにもかくにも初日から千秋楽まで無事にやりきれたこと、千秋楽は大劇場が白いお客さんでいっぱいになったこと、なんと幸せな光景かと思いました。
このあと7月10日から東京公演となるわけだけれども、オリンピックが7月23日~8月8日、パラリンピックが8月24日~9月5日という日程になるので、ここの前後とかぶる日程では意地でも緊急事態宣言やマンボウは出ないと思われるので、政府による公演中止はないでしょう。歌劇団が公演中止を判断することもないでしょう、役者とスタッフに陽性者が出ない限りは

個より月組、卒業より千秋楽そして一期一会の精神

月組のプロフェッショナルさは、ふと外部の劇団ぽいなあ、と感じるところがときどきあって。たぶん30年か40年かもっと前から受け継がれている月組流みたいなものがそう感じるんだろうかな、と思うのだけれども…。
舞台と観客は一期一会であることを忘れていませんよね。この日は千秋楽で、思い入れたっぷりの選ばれし観客のみが劇場にいたと思うのだけれども、それでもまるでこれが一回きりの公演かと思うような、緊張感とフレッシュさのある舞台だった。

初回観劇時は、いわゆる泣かせる演出のところで泣いた。2回目は冒頭、背を向けて彼岸へいってしまった楠木正成楠木正行のシルエットに泣いた。3回目は自分でも意外なことだったが、弁内侍と楠木正行の、出陣式前の永遠の別れを惜しむシーンに泣いた。千秋楽の配信では、一番最初の楠木の歌、しし鍋雑炊を皆で囲む宴会の、あの、一時の和やかなシーンの楠木の歌で泣いた。
配信だし自宅で観ているしさよならショーまで考えたら長丁場だしで、ちょっと横になりながら眺めようかと思っていたけれども、気が付くと画面の前で姿勢よく構えて観劇してましたねぇ。

退団者挨拶で、いきなり千秋楽のご挨拶のようなはじまりで観客が笑い、珠城りょうだけが何で笑われたんだろってなってた、あの様子といい、その後カーテンコールのたびに珠城りょうが口にしていた言葉から、彼女がとにかく月組トップとして月組を愛し月組を守らねば、と強い責任感を持って、滅私奉公みたいな精神で舞台に立っていることがよくよく伝わってきました。
宝塚大劇場は最後だし、ファンはもしかしたらもっと、個人の心のうちを、もっと自分のことを話してくれてもいいのよって見守っていたかもしれない、私はそうだった。
けれども彼女は終始トップスターとしてやりきっていました。もうしみついているんでしょうね。やたら若いうちからトップに立った宝塚歌劇の歴史上2人しかいない、天海祐希ともうひとりがこの珠城りょうですよ。紅ゆずるや明日海りおや望海風斗が、どこかマイペースにやっていた余裕を彼女は持たず(持てずに・持つことを許されずに)にひたすらバカ正直に真面目にここまでやってきたことには、本当にすごいの一言しかない。

同期の香咲蘭の言葉、そして自らがあいさつの中で紫門ゆりやと輝月ゆうまの名前を口にしたときに珠城りょうの涙腺がこらえきれず涙があふれたことに、とても感動しました。

桜嵐記どこもいい

ウエクミ先生はfffの際に、大胆なほど舞台装置を上下に動かし盆を回し、空のオーケストラピットを使って芝居を動かした。これはそのときだけできたことというものでもあるが、特にセリを多用したのには、主人公ベートーヴェンが相容れぬ階層社会や、物語上交わることのないナポレオンとベートーヴェンの世界を分断したりと、その世界観にあわせてよく動かしたのだろうと私はとらえた。
一方で、桜嵐記は幕前芝居っぽく群青のカーテンを引いて場面転換することが何度かあった。
群青のカーテンは、開演前の撮影タイムでも同じ幕に、水面の揺れのようなライトが当たる。たぶん、何か意図がある。

「桜嵐記は『宝塚らしい和物』であること」という一つのテーマが今回の演出手段にも影響しているのかなと感じた。そして和物芝居といえばやはりこの現代では歌舞伎があり、歌舞伎の場面転換の作法にちょっと寄せているのかな、とも思った。歌舞伎はもっと大胆に幕を閉じて場面転換するけれど、タカラヅカの場合は幕の前で歌える。

そして、多くの場面で登場人物の足元が吉野の川の流れの中ってのもきっと意味があるんだろうなあ、私にはわからんけども…と思った。あれは確実になんかあるんだろうな。
繰り返し歌われる楠木の歌についても、その都度聴こえ方が違う。楽しい時にも、つらい時にも歌われる。別れのときにも。

ウエクミ先生の演出はアニメっぽいところがあるなあとかねてより勝手に感じていたが、今回も主人公の心の揺らぎ → 気づき の場面で、舞台上に全登場人物が無表情でうごめくという例のやつを使っていた。これ毎回、なんか脳内でアニメで再生される不思議。アニメっぽいというかマンガっぽいのかなぁ。なんかコマ割りがありそうな気がしてならない。
楠木正行最期のシーン、手前銀橋で、少年時代の風景が再生され、少年時代の正行と「いま」の正行がオーバーラップする。あそこなんてもうなんだか舞台を観ているんだけれども何か違う映像形態で頭に映し出されるような感覚に陥る。
この少年時代の3兄弟のお芝居もすごくいいんだ。雑兵たちもそうだし、モブ芝居や子役芝居や、脇の芝居が毎度いいのが月組のよいところ。

蛇足で唯一、しょうもないことが気になった。移動中の休憩シーンで、弁内侍がマメをつぶし、それを楠木正行が手当するシーン。傷を拭った懐紙を弁内侍は襟元にしまう。
ここの襟元がとても詰まっているので、首にねじ込んでいるように見える。
こういう仕草は歌舞伎でしょっちゅうあるのだけれども、歌舞伎の場合は、男女かかわらず、最初から着物のえり元に懐紙の束をはさんでいるくらいにはえりを抜いて着物を着ている。
だから懐紙を取り出してなにかして、丸めたそれをまた着物の合わせの内側、ふところにスッと仕舞っても余裕があるのだけれども、そういえば見渡す限り、弁内侍にかかわらずみんな結構胸元は抜かずにぴちっと着物を着ているのね。
着物に詳しくないし、室町時代南北朝時代鎌倉時代室町時代の間だけれども、カウント的には室町時代に含まれる)の公家の着物事情は全く知らないので、こんなもんなのかな?
なんとなく江戸よりさらに昔のほうが、着物の襟元は緩かったイメージですけども、衣装としての見た目の美しさ優先なのかもしれません。

Dream Chaser のここがすごい

このショー、実にシンプルでちょっと珍しい構成もあったなと思う。
トップコンビのデュエダンが、オープニング、中詰め、フィナーレとたっぷり3回。娘役総踊り的場面がオープニング、中詰めそして選ばれし娘役たちとトップ娘役の踊り場面ありと、トップスターと男役総踊りや、選ばれし男役たちとトップスターの踊りなどの場面と同等くらいには娘役の場面があり、ことさら退団者場面やネクストジェン若手ピックアップ銀橋場面や小芝居要素はすぱっと切ってもいて、それでいて華やかで月組生の顔がとてもよく見えて、個人的に好みでした。

ただトップ退団ショーとなるとこう、なんか30年前の少女漫画にあったような未来宇宙人みたいな謎な布がヒラヒラした白いお衣装と戦争からの平和みたいなのを盆回りと舞台装置なしの広い舞台でやらねばならぬって掟でもあるのかなってちょっと思いました。文句じゃないよ。ただ既視感だよ。そんなに嫌いじゃないけど。

Dream Chaser 、噂のミロンガとI'll be backと

ミロンガ、ANJU先生が振り付けたという本格タンゴのシーンということで楽しみにしていたけれども、期待を裏切らず期待以上で、めちゃくちゃカッコいいし音楽がまたいいシーンでしたねぇ。
ここで珠城りょうが組むのが海乃美月なんだけれども、ダンサーとしての海乃美月の能力がいかんなく発揮されて、水を得た魚のようによく踊るし、月組公演計画によってはこのトップコンビの可能性もあったんだなあという if をみるような姿でもあり。やっぱりコンビによって雰囲気が変わるもんですね。コンビが変わる宙組花組もきっと面白いものになるんだろうな。
こういう演出場面では千海華蘭がきざっててカッコいいんだけれども、さっきまでのお芝居の純朴そうな百姓はどこいったギャップがすごくて照れ臭くなるんですよね……。

あと英かおと君がチャラさを抑えて紳士でよき。うみちゃん以外に目をひくのが天紫珠李。華がある。あと蘭尚樹くんがいてうれしくなる場面。

I'll be back は元ネタを知らないのだけれども、まずるねちゃんの開襟が深い、深すぎる。夢奈瑠音の艶男ぶりが目の毒。
全員かっこよいしよく踊るし歌うが、ギリギリやり過ぎずいいなって思うのだけれどもね。私これSS席3列目で観劇した際に目撃しましたよ、注目の月城かなとのソロラップシーンで、踊りながら取り巻く風間柚乃が一緒に歌っているのを…。楽しみ過ぎィ

フィナーレも、息つく暇もなく踊り続け歌いまた踊りもうひとつおまけに踊るっていう、鬼のような構成を珠城りょうはよくやり遂げたなあと、なんというか毎回びっくりする。
望海風斗がデュエダンの半分歌ってた(歌わされてた)くらいにショーで歌いまくっていたように、珠城りょうは体力あるからいけんだろ、とばかりに踊りますよねぇショーで。

よく泣く公演

この公演の感想は2通りある。トップコンビにも月組にも思い入れを抜いて、純粋にどういう出来の舞台だと感じたか、という視点と、トップコンビ退団公演として、トップコンビと組子たちがどうだったか、という感想と。でも自分は別に劇評家でも何でもないんで、ただひたすら見るたびになんかどこかで泣いちゃうんだよこの公演!としかね、それがすべてだね。
あと本当に珠城りょうが美しい。

東京公演まで充分に英気を養ってまた全員そろって、無事初日をむかえてほしい。東京公演も何度か観に行ける予定なので、またどう調整されるのか楽しみ。
チケトレに出てこないか観ているのだけれども、一枚も出てこないよ月組
とにかくとにかく、大千秋楽までの公演の無事を祈るばかり。



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