隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

桜嵐記 夢想ばなし

実は芝居のあらすじと配役が発表されてから、ずっと地味に引っかかっていたことがある。
「ハテ、高師直というのはあの忠臣蔵高師直のことだろうか」
と。
いろいろと記憶が混同していたので、今後また混同しがちなの自分のためにもきちんと整理しておかねばならない。

私にとっての高師直

結論から言うと、私が思っていた高師直と、桜嵐記の高師直は同一人物であった。私の記憶は(ざっくりと)間違ってはいなかったけれども、忠臣蔵は史実のほうではない。人形浄瑠璃・歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵(かなてほんちゅうしんぐら)」のこと。
忠臣蔵」という名前で広く知れ渡っている「赤穂事件」は江戸時代の初期に実際におこった有名な事件で、これを題材にしたフィクションが「仮名手本忠臣蔵」。

当時の事件をそのまんま芝居にして上演すると幕府にめちゃくちゃ怒られるから、太平記南北朝時代を舞台した戦争物語)に時代を移し、主君の敵討ちをした(一応そういうことになっている)47浪人をヒーローにして、登場人物の名前も全部書き換えてフィクションにした仮名手本忠臣蔵は、足利尊氏とか高師直など太平記に登場する実在の人物も名前をかりて太平記のエピソードも借りて、独自にアレンジされたキャラとして登場している。太平記忠臣蔵も、何百年も人気が続いている物語。特に歌舞伎版の仮名手本忠臣蔵になじんだ自分にとっては、高師直といわれると「ああ、あの冒頭の黒い着物のエロおやじ(※エロおやじだけど品位もバリバリで、でも色欲むんむん)…」とまあ、そのイメージがよぎる。

紛らわしくも共通するキャラクター性

史実の方の主人公はご存知「大石内蔵助(おおいしくらのすけ)」。
これが仮名手本忠臣蔵では「大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)」となる。フィクションの命名センスが良すぎるといつも思う。
桜嵐記の高師直を知ってから、あらためて思い返す仮名手本忠臣蔵のはじまりは面白い。

色めく高師直

仮名手本忠臣蔵に、悪役で敵役として登場する高師直は、もちろん女好き。
仮名手本忠臣蔵の物語は、「大序(だいじょ)」という、とっても儀式めいた特別なプロローグからはじまる。

舞台は鶴岡八幡宮(鎌倉)。尊氏が討ち取った新田義貞の兜がぶっちゃけ本人のものか分からなくて、現物をみたことのある、元宮廷の内侍を務めていた美しき人妻、その名も「かおよ御前」が呼ばれる。彼女はその名の通り顔が良い。そして兜あらため(持って帰ってきたものが本当に新田義貞のものか鑑定する)のために登場した彼女のことを、以前から目をつけていて鼻息荒く狙っているのが高師直。この冒頭シーンでは桜嵐記の後村上天皇登場シーンのように、鶴岡八幡宮の境内という神聖な場所にずらりと武士大名が並んでいるが、顔をあげてかおよ御前のほうを見ていいのは高師直の役だけ、と決まっている。
高師直は、この厳かで重要なイベントのさなか、人目を避けてそっとかおよに手紙(ラブレター)を渡す。

この高師直の、かおよ御前に対する一方的なアプローチがその後の刃傷沙汰につながる事件の芽となる。

……若干うろ覚えの仮名手本忠臣蔵のプロローグを思い出しながら書いていて、アレ?
なんとなく桜嵐記に通ずるものがある。

物語の種

桜嵐記では、弁内侍に目をつけた高師直の心を汲んで、仲子(白雪さち花)が弁内侍を罠にはめるべく偽の手紙を使う。この誘いを罠と知りながらも親の仇討ちのためにのこのこやってきた弁内侍は道中、楠木正行と運命の出会いを果たす。
一方の仮名手本忠臣蔵高師直はその後、かおよ御前から手紙の返事で振られ、その腹いせに塩谷判官(えんやはんがん。史実では浅野内匠頭)に思い切り八つ当たりをしたのでブチ切れられて額を斬られ、これが例の殿中でござる!でここから、武士一門の滅びの物語がはじまる。

それぞれ全然違う話なのだけれど、どちらの武士の物語でも高師直がキャラクタとしてとても強いからこそ話がごとりと動いたと、そんな説得力の増す存在。
高師直太平記仮名手本忠臣蔵とそして桜嵐記でも、登場人物としてとても作者に好まれているキャラだと感じる。人気武将ね。

かおよ御前と弁内侍と高師直

歌舞伎では顔世御前と書く。
顔世御前が良くなければ、高師直が是が非でも欲しいと思わない、それが無いと物語のはじまりに説得力を欠いてしまう。そして高師直という人物は、人妻の顔世御前がわざわざお手紙の返事を書いちゃうような、ちょっと困ってしまうような色気の無視できない男でなければならない。

弁内侍は美園さくらへの当てがきだという。
桜嵐記の高師直にとって、単に若く美しい娘なら湯殿チームで間に合っている。「公家の、できるだけ身分の高いお姫様が欲しい」という欲望も祝子が自ら落ちてくる状態で、こちらも間に合っている。はたして弁内侍をなぜ高師直が欲しがるのか。紫門ゆりやの「わしはあれがほしい」という台詞が説得力を持たねばならない。
高師直には弁内侍がどう映ったのか、詳しくは描かれていないけれども、ただ桜嵐記を観る自分には、たしかに弁内侍がほかの公家の姫様の中でちょっと変わった子に見えた。

「仇討のために罠に飛び込もうとする」「武士の行軍にもついてゆく」「料理がんばる」「血をみても耐えられる」などの、ただのお姫様たちとはちょっと違う子として実際にお芝居で描かれていく弁内侍だが、その姿を実際にみて惹かれていった楠木正行と違って、弁内侍として行宮で勤めているうちに目をつけていたとみえる高師直は、やっぱり普通ではない。




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