隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

特別なシーズン という言葉

『新章 パリ・オペラ座 特別なシーズンのはじまり』という映画が、2022年8月19日より公開されている。
早速、渋谷で観てきた。内容はパリ国立バレエ団がパンデミックのなか、長い休止期間を経てレッスンを再開し「ラ・バヤデール」というバレエ作品の中でも特に難易度の高い・群舞の見せ場が多く難しいという作品でシーズン再会しよう…としたけれど……という時間軸(2020年~2021年)をカメラが追いかけながら、新しいエトワール(タカラヅカで言うトップスターみたいなもの。パリ国立バレエはダンサーに序列がありピラミッド型のランク制。国立なので外国人が入りエトワールになるのは大変困難)が指名され、再始動していく様子を映していた。

gaga.ne.jp

ことばが大事だということ

この手のドキュメンタリーはたくさん見てきた方だけれど、いつも思うのは、エライ人…現場監督とか演出家とか先生とか親とか…その場の一番エライ人、の使う言葉が大変美しく丁寧で、気が利いている。こういわれたら話をきいちゃうし相手の目、意思に同調したくなるよね と思っちゃうような本当に優しく丁寧な物言いをする。
それを踏まえてであろう日本語翻訳がまた美しかった。

久しぶりのレッスン再開に、ダンサーたちに向かって、バレエ団の先生(多分エライ人。女性)が「再会できてうれしい」ということを本当に嬉しそうに、静かに伝える。長々演説するわけでもなく。

ゆっくり時間をかけて身体をストレッチして、さあバーレッスン、というのはまだまだレッスン半ばというところだと思うが、相当みっちりストレッチするんだなあとわかるくらいみんな汗がすごい。そしてバーレッスンもなんか嬉しそうで。
男性ダンサーが、グラン・ジュテというのか、片足で高くジャンプしながらぐるりとスタジオを半周するような振りのレッスンをしようというときに、
「やった、ジャンプできる!」「ジャンプしたい!」「家で飛んでたー?」「飛べるわけないよーずっと走るだけだよ」「飛んだら隣から怒られる」
というような会話をキャッキャしていた。そんな会話をする彼らはいわば、パリ国立バレエ団のトップスター達なんだけれども、自粛期間中のフランスは外に出たら罰則があるほど日本とは比較にならない厳しいロックダウンがあったわけで、毎日8時間以上踊っていた人間が走ることくらいしかできなかったという。

そんなウキウキのダンサーたちに先生たちが優しく厳しく「飛ぶな」というのだ。
「いいね、飛んではいけない。慎重に慎重に」「絶対にいきなり飛んではいけない」「飛ぶな」「飛んではダメ」
ジャンプのレッスンなんだけど、飛ぶなという先生の気持ちがとっても強くて印象に残った。致命的な怪我をさせないという使命感が強くて。

ハッとする瞬間

振付が順調に進み、男女のダンサーがデュエットでリフトをするが失敗する。「しばらくやってなかったから…」と男性ダンサーが戸惑っていた。

また別の場面では、バレエ団のトップダンサーのひとりが「あまり時間がない。42歳が定年だから」という。
パリ国立バレエ団のダンサーの定年は42歳。肉体のピークは短いので、舞台に立てないもどかしさや、人生におけるダンサーとしてのピークはいまなのに思う存分レッスンできないこと自体に危機感を持つ言葉が映っていた。

たびたび、タカラジェンヌのことを思い出しながらこの映画をみた。

パリっ子におけるパリ国立バレエ団

映画とは関係ないが、パリ在住の日本人夫婦が、子どもが通うバレエスクールのお友達(地元フランス人)たちから受けたフランス人におけるパリ国立バレエ団の存在感について感じたことを紹介していたブログを思い出した。
「フランス人において我が子をパリ国立バレエ団に入れようってのはとても非日常的なことで、日本でいうところの娘をタカラジェンヌに…みたいなものだと思う」
というような感覚だとその人は紹介していたっけ。

そういえば、WOWOWで放送していて制作にNHKも入っていた「明日のエトワール。~パリ・オペラ座バレエ学校の一年~」というドキュメンタリーのシリーズものがあった。フランスの国中でバレエを志す、下は8歳の子供から10代前半の子が厳しい学校入学オーディションに挑んで、難関の入学に喜んだものの年々落とされて、年齢があがるほど人数が減っていき、いざ卒業というときでも試験に通らなければパリ国立バレエ団に入ることはできない。8歳や9歳からたとえバレエ学校で生き抜いたとしても、卒業イコールあのオペラ座の舞台に立てるわけではないという狭き門。合格したらしたで8,9歳でも完全寮生活となる。フランスの地方から出てきた9歳の子が合格しそのままバレエ団に入団できたとしたら就職となるわけで、週末のみ家に帰れるとはいえ実質、10歳を前に親元から巣立ち就職(の準備)をするということだ。
おまけに税金が投入されている国立組織なので、バレエ学校についてはフランス人のみが正式に在籍できる、という資格を絞っている点も、また興味深く。
こういう、一般人には触れる機会のない特別な世界の話はいつも面白い(外国人がパリオペラ座バレエ学校で学ぶ機会を得ること自体は可能だが正規学生とは違う扱いらしい)。

私がタカラヅカに興味があるのも、パリ国立バレエ団およびその学校のドキュメンタリーに高い関心を持つのも同じで、秘密めいた扉の向こうの世界だからである。

新章のはじまりは

パリ国立バレエ団といえば「パリ・オペラ座」だと思う。映画のタイトルも「パリ・オペラ座」だし。でもバレエ団が公演再開する実際の場所は「オペラ・バスティーユ」あのバスティーユ牢獄の跡地にできているいわゆる「新・オペラ座」で、私が認識していた古き良きオペラ座は「ガルニエ宮」なのだそうだ。どちらも国立バレエ団の本拠地ではあるとのこと。ガルニエ宮のほうはバレエとオペラだけ、みたいに用途を絞っている模様。
バレエダンサーたちは、このオペラ・バスティーユでの舞台リハーサルに慣れない様子であった。本拠地の一つとはいえ、久しぶりにその舞台に立って、本番のセットで本番の衣装を身に着け、見どころのひとつである群舞のリハーサルをやるシーンがあるが、この緊張感は大変なものだった。


ただいまタカラヅカは感染者続出によりたびたび公演が中断している。
コロナに関して規制緩和されたら、多少感染者がいても公演中止までする必要はなくなるかもしれない。ただそれは、熱があろうが咳が出ようが後遺症に苦しめられようが、タカラジェンヌを舞台に立たせる、ということにもつながりはしまいか。
タカラヅカが偏愛するパリのダンサーたちが厳しい中にもmaître(メートル。講師とか先生とかいう存在で、演出家も含まれていたかも)たち大切にされているように、
日本の小さな町の歌劇団の団員達も、どうか本当の意味で、組織にもファンにも大切にされてほしい。本当の意味で。



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