開幕の、ボー・ブランメル演じる朝美絢が感情のない目線で、指先ひとつ髪一本まで完璧な角度で見下ろしていたあの場面。
あの、全身に役を漲らせなければできないであろうあの開幕シーンの朝美絢はさながら、板付き登場の歌舞伎の看板役者のごとき気迫であった。
それでいて役を忘れぬ「静」なる存在であった。
トップスター登場シーンは拍手を…という習慣に慣らされた劇場の観客も、無邪気に手をたたくことをためらうあの開幕シーン。
あのように静かに主演が開幕に出てくるタカラヅカ作品は珍しい。が、ミュージカル「キャバレー」みたいだなと思った。
あれも温度のない視線で見下ろしてたよね。最初。インスパイヤかしら。
朝美絢の正しい使い方
学園青春ものも、キツネも、魔法使も、やらせてみたかったのはわかるし、それらを経てのこの仕上がりなのだから、やってこなけりゃレベルはあがらないんだから、とまあそう思う。
けれども全部あんまり私の好みではなかったので、彼女に魅せられる経験はなかなか訪れなかった。
それがどうでしょう。魅せられざるを得ないこの迫力よ。今作はいろんなもののいいところを見せてくれたな~と思ったなぁ。
いつもより身体にフィットした衣装は、男役を演じるにあたって女性的なラインを殺すことも必要なのに、かなり難しかったのではと思う。ピタリとしたパンツは特に。しかし、すべてのシーンで衣装は完璧に着こなしてないとこの役の説得力は皆無。
隙あらば鏡をみてちょいちょいなおしてたりの芝居がとっても自然で、あーさはさすが芝居の人ですわね。
いまのあーさが、本人的に悔やむところが多かったらしいファントムのシャンドン伯爵と支配人の両役を今やってみたら全然違うものになるのかな、なんてこともちょっと思ったり。
関係性が大事だと思い知る
全体的に、ヒロインの夢白あやがでずっぱというよりは、意外とでてこない。その分ラストをたっぷりと、という感じに印象的な餞別シーンが用意されていた。
このハリエットというヒロインは、瀬央ゆりあ演じるプリンスオブウェールズの愛人。それも、最新の愛人。唯一のではないし、本人は平民上がりの舞台女優と、社交界の貴族夫人たちに鼻で笑われるような身分である。であるが、英国皇太子の寵愛という強いカードを持っている存在。
この夢白ハリエットと朝美ブランメルが、皇太子を通じて知り合って一目ぼれして、お互いパトロンの皇太子への義理とか色々あんのにひかれあっちゃってどうしようもなくって破滅が待っていて…なんていうはなしだったら、今作は普通だったかもしれない。
生田氏はこの二人を「元カレ元カノ関係」にした。で、今どきの言い方をすれば、朝美ブランメルはある日突然、夢白ハリエットのインスタもLINEブロックして消えたんである。
何も言えずに、話し合いがちゃんと持てずにモヤモヤを抱えたまま終わる恋愛関係って、相手への愛や恋以上にダメージを残すというか、引きずるわけよね。
夢白ハリエットの、あの、いきなり自分を切った元カレと再会しちゃってあの時の感情がよみがえってきてイヤんなるから視界にも入れたくないって気持ちのお芝居がもうめちゃ萌え。
夢白あやの元カレが朝美絢って文字にしても大変よろしくって、わくわくして愉快でひっじょーにそわそわして楽しくなった。素晴らしいですわ~!萌えますわ~~!!
ほんとに、下手にクリーンにイエスフォーリンラブな出会いにするんじゃなくて、お互い「アッ」「ゲッ」「うそでしょ」みたいな再会となる元カレ元カノ関係でスタートし、案の定再び燃え上がる、それも狩場の森の中で!というこれぞな場面と関係性を持ってきてくれて本当に楽しかったです。
このシチュ、ヅカではありそうでないよね!あるか?どうだろう思い出せない!!
全くいいやつではないが彼がいないと始まらなかったの縣千
縣千はヘンリーという、朝美ブランメルの悪友。これがなかなかいい役でしたねぇ。ヘンリーがいなければボー・ブランメルは誕生しなかったといっていいが、友人やいいやつかっていうとそうではない。なにかとつるんでいるけれども最後に請求書寄こしてくる、笑顔で。なんかこう、朝美ブランメルが客で、縣千がホストみたいだったね。
与えて奪う、笑顔で。そういう役だったなあ、と。縣ヘンリーを観ていて飽きることはなかった。
組長か?と思った華純沙那
夢白ハリエットを「かつての自分」とみて、アレコレ動いてた公爵夫人役の華純沙那が、とってもよかったですねぇ。彼女は娘2って感じでした。そうでなかったら組長クラスの女役にみえた。
今作が映えていたのは、元カレと再会しちゃう女優のヒロイン夢白あやと、社交界の顔である公爵夫人の華純沙那と、夫に相手にされていない皇太子妃の音彩唯という3人の女性が、三者三様で、カラーが全然違うこの3人の対比が鮮やかで印象深かったこと。そして全員それぞれ違う美を持っていて、美しいったらなかった。
新人公演の映像でみた華純沙那は、メイクの効果か、本役の夢白あやに寄っててガラリと印象がちがって。力がある娘役さんですねぇ。
瀬央ゆりあの存在
今作、もうひとつは雪組にやってきた瀬央ゆりあの活躍。やっぱりうまいと思う。専科時代を経て歌や声がよくなったと思うし、この人はなんというのか、芝居の点と点をつなぎ流れをつくるような芝居ができるというのか、なんか、うまく言えないけど、ハリエットとの関係やブランメルとのやりとりや無駄遣いしないでという党の連中たちとのやりとりによって、すべてが同じ世界の話、地続きの、同じ作画の話になるのは、瀬央ゆりあの芝居が潤滑油になっているような…なんかこう全体をよくする感じの芝居だなぁと、そんな風に感じた。
あと諏訪さき
前にも書いたけどやっぱり諏訪さきね。諏訪さきがすごくすごくよかったね。あれ、あのお父さん役は誰だろう!って真っ先に気になった。
ショーでもはつらつとしてて、ああ雪組はこの人が支えているんだあと、しっかりと印象に残った。
世界が変わる
冒頭で、でっかい針金いりに綿菓子のようなカツラの貴族たちがずらあっといた場面から後半、洗練され落ち着いた色合いの男女がならぶ。ファッション革命が起こったその様相が本当にドラマチックで、細かいことを知らなくても伝わる物語に仕上がっていて、それでいて悲壮感がなく、なんかいいラストでしたねぇ
舞台の奥に劇場があり、夢白ハリエットがカーテンコールを受けて…という場面は彼女のための餞別の意味もしっかりあって、座付き演出家ならではの愛ですわね。
ラストのラストの朝美ブランメルのしぐさ、帽子の扱いについてはきちんとした意味があるんだろうなぁと思ったんだけれども、果たしてどのような思いなのか…。
よくわからんが、演じている朝美絢のブランメル自身があんまり気にしてなさそう。