隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

女が8人もいて、幸せなだけの物語なわけがない

「8人の女たち」ってタイトルが面白そうで、ずっと気になっていた演目。でも観たことがなかった。
いつか観てみたい、そう思っていたところにタカラヅカOGの、おまけに実力ぞろいが揃うという舞台、これは見逃せないと思ってチケットを申し込んだら手に入ったのが関西上演の分。久しぶりに新幹線で遠征してきた。

ミステリ仕立ての芝居

私はミステリが好きだけれども、芝居で推理劇みたいなものは難しいのか、客席の理解力にばらつきがあり過ぎるのか、今も昔もちょっと工夫が必要みたい。
この「8人の女たち」はちょっとした(ちょっとどころではない)事件があっという間に起こり、館に閉じ込められた女たちが次から次へと「ちょっとした」嘘を暴露しあったりなんだかんだ……飽きる暇がなくあっという間に結末へ突っ込んでいくが、女というしょうもない生き物の滑稽さだったり、平気な顔して嘘をつく×8人…みたいなところも、まあ面白い。コメディ…喜劇で悲劇で。最後は余計な余韻がなく幕が下りるけれども、もしあの先にも彼らの人生が続くのだとしたらちょっとやりきれない。
そんなところも含めて、愛される芝居なんだと思う。

私はBBCポアロやマープルが好き

そんな私にとって、湖月わたるの声、久世星佳の芝居、真琴つばさのあざとい動き(あとで理由がわかる)がもうまるで、良質な吹き替え海外ドラマそのものみたいで実にわくわくした。この上級生3名が最初から最後までなんというか、BBCの英国ミステリドラマ感をまとってくれるので、取っ組み合いが繰り広げられても土下座がはじまっても品がいい。

上級生3人、すべてがよかったけれども、エリザガラ的な舞台でみる湖月わたるよりも、ずっとずっとこの上品な上流階級マダムの湖月わたるが美しくってよかったと思うほど鮮やかな変貌ぶりでさすがとしかいいようがない。でこの、女主人な湖月わたるよりずっと終始地味な、古参の使用人役、久世星佳は、最初「えっとこの初老の方は誰だっけ」と名前が思い出せなくなったくらいに、少しの無駄もなくそのままでそこにいる感じがまあうまくって。なんだろうアレっておもって、幕間に買う予定のなかったパンフを購入し読んでみると、久世星佳の役づくりや舞台づくりはまさに、月のようにほかの人の輝きに反射するようなものなのだったと納得。

冒頭からおちゃめなところをみせた真琴つばさも、全身立ち姿をみせられると相変わらずのスタイルの良さ。終始ことばづかいが丁寧で、この物語の毒親その1なんだけれども悪意がないというたちの悪さがその上品さにもあらわれているというか、マジで娘のギャビー(湖月わたる)とオーギュスティーヌ(水夏希)にとっては呪いなんだろうなと。

OG上級生組と下級生組の間に位置をとっている水夏希。正直、現役時代はあんまりみていなくって印象にないんだけれどもこんなにうまいんですね…。
エキセントリックヒロインを完璧に体現していた。水色タイツ似合うね~。

元娘役ってスゴイ

そう、8人の女たちって絶妙な塩梅で、ちゃんと全員ヒロイン。皆台詞多いしマジかってくらい全員よくしゃべるし。
そのなかでも一番身体を使ってやらかすのが、水夏希演じるオールドミス・たぶんモテたことのない女、次女オーギュスティーヌ。鼻につきかねないあの役がなんだかかわいく見えたのは、元男役の持つ独特の芝居感と水夏希の生来の清涼感の影響だろうか。

同じ「女たち」でありながら、元娘役チームと元男役チームは、別チームっていいたいくらい、すっぱり持っているものが違った。体型がちがうといえばそれまでかもしれない。けれども身長と腰の位置の高さ、スレンダーさだけでそんなに変わる?
出演していた元娘役たちは、夢咲ねね、蘭乃はな、花乃まりあ
全員、ファンも多いがアンチも多かった、何かと話題にのぼり記憶に残る元トップ娘役たちで、現役時代はいずれも私の好みじゃなかったけれど…
いつぞやのエリザガラコンのとき、それまでみたどの元男役がやったエリザより何倍も彼女たちはよかった(※初代一路は別)。美しさでも表現でも歌でも、卒業後も研鑽をつんだ彼女たちは本当に良かったと思ったっけ。
同じように、こうしたストレートプレイでみる娘役芸の掟から解放された彼女たちは、彼女たちこそが、この舞台をより魅力的なものに面白いものにしている素晴らしい役者陣であった。

満を持しての8人目

お芝居、8人はほぼ出ずっぱりだけれども、前半途中までは7人なのね。そしてまだかな…そろそろかな…一人足りないな…っていうこっちの期待が最高潮に達したころに物語に8人目が登場する。この8人目の女ピエレットを演じたのが珠城りょう。
今回、女優デビュー舞台なので彼女は注目されているし、注目を集める魅力的なエサでなければならない。でなきゃ元トップの看板がすたるというもの。
彼女の声・せりふ回しの独特な硬さを、在団中は芝居下手だと断ずるファンもいたと思うがやっぱり彼女は芝居が下手ではない。ただ台詞いっているときより黙っているときの芝居の方がこの日はよかった。

水夏希のオーギュスティーヌの秘密が暴露され、彼女がスポットライトを浴びて弁解しはじめたそのときの、エッて顔してるときの様子とかめっちゃうまくて。
でも登場してまもなく、舞台上で何かがあったのか珠城りょうは相手(誰を相手にしてたか忘れた…)になにかしかけられでもしたのか、役や芝居とは絶対に関係ない噴き出し笑いを必死にこらえて顔をそむける一面があった。何があったか謎だが、楽しそうなカンパニーに参加できてよかったね珠城りょう。

当たり前のことなんだけど…

そもそも、脚本や演出が的を射てて面白いのって大事だよなぁと。この舞台は場面転換は一切しない。セットは終始同じ。
セリもなければ大きな階段もないが、とても上質で面白い芝居だった。安心して観られたし。
ヅカばかりみていると、役者は生徒だし、演出家はなんかみんなベテラン客に基本舐められているというか……。先日千秋楽をむかえた花組の「巡礼~」で、音くり寿たち貴婦人のようなテンションの観客が、リストたち芸術家=歌劇団のジェンヌや演出家、を愛でるような関係性にみえなくもない。
が、たとえOG公演とはいえよその人が作る舞台はこうも…まとうものがちがうのね、とふと思ったり。

千秋楽のライブ配信

今日12日の千秋楽も、ライブ配信があるという。3日間のアーカイブ付きで5,000円。ありがたく観させていただく。
アーカイブ付きでこの値段ならいいよね、と思う。