隣のヅカは青い

ヅカファン歴は30年ほど。しかし観劇デビゥは2019年から。それほど遠い宝塚についてのブログです。

舞台で表現される物語のこと

花組大千秋楽の余韻を残しつつ、気になったこと。
物語アルカンシェルではナチスドイツが分かりやすい悪役として登場した。舞台にデカデカと掲げられた赤地にカギ十字の旗に嫌悪感を抱いた感想をいくつかみかけた。
海外のミュージカルでは、ナチスドイツって題材は普通に受け入れられるのかな?と思って検索してみたけれど、そもそもいまどきのブロードウェイはそんなもんどこもやっていないようで……。

まともな反応と配慮モンスター

世界の歴史上の出来事のなかでもなかなかにセンシティブな「ナチスドイツ」で「カギ十字」。私はまあ、物語上のわかりやすい悪役のアイコンとして今回も使われたな~くらいにしか思わなかった。

とってもセンシティブなものを安易に使うなんてプン という感想もわからいでもないが、もう少し冷静でもいいのではと思う。
2015年くらいだったか?東京オリンピックを目指して世界中からやってくる観光客向けに日本の地図のマークもわかりやすく刷新しようという動きがあり、寺のマークでおなじみの「卍」が、五重塔的なイラストのようなマークに差し替えられることがあった。

これに対し海外でなかなか物議をかもして、みんな大好き英国BBC
ナチスドイツが数年使ったマークを想起させるからという理由で、5000年くらいある卍を差し替えるなんてしなくっていいのに…」
というのが主な欧米人の反応として取り上げられていた。

卍はヒンドゥーの神様の胸毛を起源としており、とてもとてもおめでたい吉兆マーク。5000年(の歴史があると言っているのはヒンドゥーの本拠地インド人)VSドイツの数年だけ使われたポッと出カギ十字 なら圧倒的に5000年の卍だし、気にすんなよ!というコメントは頼もしく清々しく感じた。

推察するに日本人の有識者もそうしたことはわかっているけれど「めんどくせぇのに騒がれるのやだな」ていう危機回避能力と配慮ムーブメントが発動したんであろう。

馬鹿な犬ほどよく吠える

慣用句はいい。こんなに的確な表現があるんだもの。私もここでこんなブログでわんわんと吠えているなう。

ただ地図のマークの件だけではなく、昨今の主に炎上目的と思われるSNSでみられがちな「○○に配慮しろモンスター」はSNSの場合、炎上するとインプレッションが稼げて金になる(1000インプレで4~600円らしい??)ことから真偽不明の内容が散乱しているが、こうしたカネ稼ぎ的なノイズを除くと結局のところ
「少数派の意見や行動は少数派だから珍しいのでいろんなところで話題になりニュースになるがゆえにそれ以外の大多数の問題より大きくみえがち」
なのを、真に受けちゃう人たちがいて、そこが問題なのかなと感じている。

なので日本の大衆娯楽でわかりやすい悪役として登場したナチスドイツに「けしからん!」ていう声も、私には少数意見として目立って目に付いたのだろうと分析。
そしてアルカンシェルのカギ十字に嫌悪感を抱いた人の気持ちを解体すると、根っこは2つあったのではないかな?と私は思っている。

・歴史的にセンシティブなものを安易に使うなんて…という素直な反応
・またカギ十字かよ、飽き飽きだ!ヅカの脚本演出はまたこれか!という作品や演出家への不満のはけ口

どうしてもそれを登場させて描かなければならなかったのだなぁという観るものに与える説得力が、物語に足りなかったんではなかろうか。
軍服カッコイイと感じることへの不謹慎感なんかも混ざっていたかもしれない。まゆぽんをはじめとする演者のパワーは素晴らしかった。

もうすぐトニー賞

ミュージカルといえば米国ブロードウェイ。毎年6月にトニー賞が発表される。WOWOWで生中継がある。ノミネート作品の名場面を授賞式で生でやるもんだから楽しいので、ここ数年結構みてる。のだけれどどんなミュージカルがいまブロードウェイで受けてんのかな?ていう視点だと…いまいちピンとこない。

2024年の作品賞にノミネートされた作品たちから、最新の世界のミュージカルシーンと日本のタカラヅカ歌劇とはどんだけギャップがあるのかな??なんて思って調べてみた。

  • 『Hell’s Kitchen(ヘルズ・キッチン)』

  アリシア・キーズの楽曲使ったジュークボックス・ミュージカル。ヘルズキッチンは地名。ティーンエイジャーの娘と母の葛藤物語。

  台詞のないダンスミュージカル。主人公はゲイの青年。イリノイ州小話を挟みつつ失恋話をイリノイの森のキャンプファイヤーで初対面の人たちと昇華する。

  アンジェリーナ・ジョリーが娘に薦められ「いいじゃん」となりエグゼクティブ・プロデューサーを務めたオクラホマの青春10代傷つき傷つけられ物語。

  • 『Suffs(サフス)』

  20世紀初頭の女性参政権運動の物語。選挙権を求めて人種階級世代を超えて闘った女たち(=Suff:サフと呼んだ)の希望の物語。

  • 『Water for Elephants(サーカス象に水を)』

  ベストセラー長編歴史小説が原作。世界大恐慌の真っ最中、無一文の孤独青年がサーカス団に加入しゾウを調教して恋もする。映画版が「恋人たちのパレード」。
  

うーん、そそられない…じゃなくてめんどくさそう…いやえーと歌とダンスは凄そう!

で、ほんとのところは

じゃあ実際この、ノミネートされた新しいミュージカルたちが一番人気なのかと調べてみると…

  1. ライオン・キング
  2. アラジン
  3. シカゴ
  4. ムーラン・ルージュ
  5. ウィキッド
  6. MJ ザ・ミュージカル(マイケル・ジャクソン物語)


うん、日本人にもおなじみの、明るいど定番・大衆娯楽じゃんね ちょっと安心した…。

ランキングは複数サイトで確認して、若干順番が異なるものもあるがこの6作品がトップ6であるのは共通していた。

賞レースはコアファン向けの新作、興行収入はど安定の定番大箱ものってことなんでしょうね。きっと。
みんな政治的メッセージが必ず含まれていて黒人とゲイと10代と女と男との簡単にはいかない悲劇とその中のかすかな希望だけ歌って踊っていてそれがより価値のあるものという認識になっているのかと思ったけれど、べつにそんなこともないみたい。

ど定番とマンネリは観光客が支える

ブロードウェイは一年中ミュージカルが、中小劇場でわんさと上演されているんだYO!の実態を2023年の現地リポーターの記事から引用してみてみると、
・日本円で2万円くらいのチケット。当日ギリギリだと1/4で買えることもある直前値引きシステムがある
・客層の平均年齢は高い。時間がある老人が団体バスツアーでやってくる
・子供の修学旅行的な団体ツアーもいっぱい
・あと観光客
・開演は20時くらいから。みんな夜ご飯たべて一杯ひっかけてからミュージカルを観る
・1幕は歌とダンスでノリノリしていかにキャッチーかがキモ、2幕から急に物語が急転直下して本命の歌・ダンスがくる。2幕で怒涛の展開がないと評価下がる傾向
・生演奏を使わないといけない(組合の取り決め)縛りがある。


…ざざっと調べてみた限りの私の感想としては「ブロードウェイもヅカも案外変わらんじゃん」という…。

平等や権利の名のもとに、多くの制約も生まれているあちらにくらべて、ほどよくマイナーでほどよくクローズドでほどよくいい加減なことは、演者、興行主、ファンの3方ヨシなことではなかろうか。

ヅカでどんな物語がみたいのか?まで書いて考えてみようと思ったがそこまでたどり着かなかった。また考えてみようと思う。



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